千住大橋駅を下車し、日光街道の方面へ向かう途中にある「荒井屋千住大橋店」。
お店の外観は窓張りタイプで店内が見やすく。
開放的な雰囲気があり、“創業1977年”という歴史を持つ老舗酒屋です。
そんな荒井屋千住大橋店は、店内の半分を利用して2017年から“角打ち”をスタート。
角打ちとは、居酒屋でもない、立ち飲み屋でもない……独自の文化を持つ空間!
「与えられた箱で最大限を狙っていくのが角打ち」と語るのは代表取締役の松村隆さん。
今回は荒井屋千住大橋店の「角打ちの特徴」や「こだわっている点」について貴重なお話を伺ってきました。
長い歴史を持つ老舗酒屋を引き継ぐ!
現在、取り扱っているお酒はどのくらいあるのですか?
ー松村さんー
「種類はビール、日本酒、ウイスキーなど。ほぼ全般を扱っていますね。酒は商品なのでどんどん新しいのが出てきたり、美味しいお酒でもなくなるものがあったりして入れ替わっていきます。」
では当時から変わらずに取扱っているものもあるのですね
ー松村さんー
「77年からだから……俺が生まれる前ですよね。そうなるとサントリーのオールドとか、あとサントリーの角瓶とか。角瓶ができたのが、日中戦争の1937年くらいかな。やはりウイスキーが一番古い商品になりますかね。」
もともと松村さんは別の会社に勤務されていたと拝見したのですが、どのようなきっかけで荒井屋さんへ来たのでしょうか?
ー松村さんー
僕は埼玉県の川越から5キロ離れほど北の上尾市にある「株式会社文楽」に勤務していました。文楽はお酒を造っている会社で。僕はもともと学生時代に生物を先行していて、その縁もあり、川越から近い文楽を選び、最初は製造として入りました。そのあと営業を13年しています。営業の方が長いので、製造はあんまりむいてなかったのかな……。
日本酒メーカーの営業は酒屋さんを回るんですよ。売ってくれるのは酒屋さんなので。アサヒビールさんから直接スーパードライは買えないじゃないですか。お酒は酒類小売業の免許制度があり、長い歴史になっているからメーカー卸売、小売店の流れになっています。私は小売店を回っていたんですね。
そして、荒井屋の先代と縁がありまして。その先代には娘さんしかおらず……あと何年かして店を廃業するような話を聞き。このままではもったいないと思い文楽を退社しまして、荒井屋酒店の半分を譲り受ける形で買い取らせていただきました。
当時はかなり勇気のいる決断だったのではないですか
ー松村さんー
「どうですかね。タイミングが良かったのもあるし、13年営業をやっていたので荒井屋さんは、だいたいこんな感じだろうなと分かっていました。荒井屋店は、お客さんはこの辺りで、どのお酒が入ってくるかなど。そこまで全部知っていたのですよ。売り上げもそうですし。今までフォローしていたので、不安とか特になかったですね。」
与えられた状況を最大限に活かす角打ち!
2017年に角打ちを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
ー松村さんー
「実は角打ちは僕がこっちに来る1年前にオープンしていました。だから僕が作ったわけではないんですよね。本当は設計から携わりたかったな。ツッコミ所が満載でして。やはりね。飲食店では、蛍光灯はダメなんですよ。」
蛍光灯だと何か問題でも?
ー松村さんー
「お酒が美味しく見えないんですよ。色合いも変わるし。光が強すぎて眩しすぎるから“すのこ″を巻きましたよ。でも与えられた箱でね、やっていかないといけないので、少しずつマイナーチェンジしていこうかなと思っています。」
面白いと思ったのがチケット制を導入している点なのですが、なにか狙いがあったのですか。
ー松村さんー
「酒屋さんは飲食店のノウハウがないじゃないですか。角打ちに入っていただいているスタッフさんも飲食経験がなくて。初めはお金と食べ物を一緒に扱うのが嫌だってなり、じゃあチケット制しようかとなりました。怪我の功名じゃないですが、面白いと言ってもらえますね。最初はメダルみたいなものにしようと思っていたのですよ。1000円で3枚とかにして。ただメダルだと財布がかさばるから。持って帰るにはチケットの方が良いのかなと。ただね………100円刻みで作ったので、値上げするときも100円単位からになりますよね。申し訳ないですが。」
角打ちで用意している商品ラインナップにはこだわりがあるのですか。
ー松村さんー
「日本酒に関しては、僕は日本酒メーカーで働いていたので、自分の好きな酒を半分と。世の中的に美味しいと言われていて、手に入るお酒や地酒を用意しています。日本酒は、ほぼ自分の色で決めていますね。」
定期的に商品は変わっていくのですか
ー松村さんー
「定期的に変えていますね。結局1本ずつやっているものなので。やはりね、日本酒は食べ物なので1本空けてフレッシュでローテーションした方が美味しいんですよ。長く冷蔵庫に寝かせている物をありますけど。それはそれで味が変わって上手くなりますが、基本はやはり早く飲んだ方が良いと私は思っていますね。」
これは飲んでほしいという松村さんの「おすすめ」の一杯を教えてください
ー松村さんー
「あんまり銘柄で差をつけていないので。特におすすめもなくて平等ですね。僕はこれとこれが好きですみたいな。おすすめというよりも、自分のスタイルなのかな。甘いのとか、辛いのとか、ちょっと炭酸感があるものだとか。好みを教えていただければ、それに見合ったお酒をおすすめします。日本酒が好きな人は結構、研究熱心なので自分で見て選ぶ人が多いですね。」
意外と地元のお酒も注文されるようなので、今回は「千住ねぎ焼酎 やっちゃ場」を一杯いただきました。「やっちゃ場」はクセがあり、好き嫌いが分れるとのことでしたが。お湯割りで注文したからなのでしょうか、独特の臭みもなく飲みやすかったです。
誰でも打ち解けられるアットホームな雰囲気
ここからは角打ちスタッフとしてお店に立つ「尾崎ムギ子さん」も交えて、荒井屋さんの角打ちの雰囲気を伺ってみました。
メモ
尾崎ムギ子さん(SNS:X)は、散歩の達人でコラムを書いているライター&エッセイスト。
現在は不定期で荒井屋さんの角打ちをお手伝いしています。
角打ちはどんな人が集まりますか
ー松村さんー
「時間帯によっても変わってきますね。早い時間帯は退職をした年配の方など。昔仕事していてお酒が好きな人や家が近い常連さんが5時から6時くらい。19時くらいから現役で働いている人になりますね。僕の理想としては、どこか飲みに行く前の1杯に来てもらって、またこっちに帰ってきたときに最後のクールダウンとして1杯水割りでも飲んでくれたら嬉しいです。そのためにウイスキーを充実させていますよ。」
実際に角打ちのスタッフとして立つ尾崎さん。荒井屋さんの角打ちの雰囲気はどのような感じですか?
ー尾崎さんー
「雰囲気ですか。他の角打ちに行ったことがないのでどうなのだろう。」
ー松村さんー
「角打ちって、その店によって独自のルールがあったりするよね。」
ー尾崎さんー
「荒井屋は入りやすいですね。私は最初、お客さんとして一人でフラっと来たのですが。一人で飲んでいても、松村さんやお客さんが話かけてくれるし、そこで出会いができて友達が増えました。女性1人でも来やすい雰囲気ですかね。」
ー松村さんー
「うちの店は入口が入りにくいかもしれないね。一回工事しようかなとも思ったりしたんだけどね。」
ー尾崎さんー
「一回店に入ってしまえば、次から何回でも来れるお店ですよ。一人でも楽しめてハードルの低いお店だと思います。」
ー松村さんー
「角打ちって与えられた箱の中で上手くやっていくのが角打ちだと思うのよね。お金かけて合理的に改造しちゃうと魅力がなくなる気がする。結局、角打ちって酒屋の一角でビール箱ひっくり返して、お店の物を飲むのが流行りの発症なので。それをキレイに直していく必要はないのかな。」
角打ちはお酒に詳しい人が集まるやや敷居が高いようなイメージがあるのですが。
ー松村さんー
「全然そんなことはないですよ。酒屋にもよるかもしれませんが。うちは飲食の許可を取ったので仲間の地酒屋さんから色んな銘柄を仕入れています。ただ、ガスがきていないので料理が出せないですね。売上を考えたら食べ物を出した方が伸びるだろうけど、与えられた箱で最大限を狙っていくのが角打ちだと思うので。うちは酒の銘柄で勝負しようかなと。キャンペーンもやりますし、焼酎も「魔王」を始め「伊佐美」とか用意していますよ。」
ー尾崎さんー
「そうだ。「魔王」を300円で出せるのが凄いと思っていました。」
ー松村さんー
「それは企業努力かな。45mlで出しているからね。本来、そんなに高いお酒ではないよ。」
少しでも多くのお酒と巡り合い、楽しんでもらいたい
キャンペーンは定期的に考えているのですか
ー松村さんー
「在庫の量を見ながら考えてはいますね。今、芋焼酎はアゲインストで売れてないので。一時期は芋焼酎ブームが凄かったのですけどね。日本はブランド志向ですから。やはり様々なお酒を飲んでいただきたいという思いが強いですね。日本酒メーカーに限るのですが、今国内に900社あります。そのため、日本酒好きでも一生のうちに出会えない銘柄も出てきちゃう。だから、少しでも様々なモノを提供していきたいなと。「あれは前飲んだ、これも見たことある、次はこれ」って感じでスタンプを増やすじゃないですが。楽しんでくれたらいいかな。あとは焼酎もこれから頑張って、蔵元さんを助けたいなと思っていますね。焼酎はどうしても売れ行きが悪いので。」
焼酎は人気がないのですか
ー松村さんー
「人気がないわけではないのですが、芋焼酎・麦焼酎・米焼酎は完全にハイボールにやられて流れていきましたね。ハイボールと酎ハイが弾頭していて。2年前程から昨年対比およそ120%上がってきていて、年1.2倍ずつだから4年で倍になるのかな。やはり昔はハイボールがなかったから、みんなそっちを選ぶんですかね。」
最後に今後は角打ちをどのような場所にしていきたいですか
ー松村さんー
「色んな人と出会える場所にしたいですね。情報交換する場としても。色々な情報じゃなくてもいい。決まったモノを発信する方が面白いと思うんですよ。色んなモノの情報は世の中に溢れていますから。例えば「プロレス好き」や「歌舞伎好き」が集まる店でもいいし、なんか特徴がある方がいいんですよ。僕はロックやメタルが好きなので音楽っぽい店も面白いかなと考えていますね。」
荒井屋さんの角打ちはフランクに楽しめる場所
実際に私も荒井屋さんの角打ちを利用していますが、お酒を飲みにくるお客さんは年齢・性別に関係なくフランクに接してくれるアットホームでオープンな雰囲気です。
一人で来るお客さんが多く、話を楽しんだり、お酒に集中したりと思い思いに角打ちを楽しみやすい場所ですね。
荒井屋さんの角打ちは、あえて枠から飛び出すようなことはしない。むしろ「与えられた箱を最大限に工夫して魅力的にしていく」という松村さんの思い。その背伸びをせず、飾らないスタイルが、荒井屋さんの魅力の一つ。あるがままに存在する角打ちだからこそ、居心地の良い場所となり、アットホームな空間ができるのでしょう。
また、松村さんの日本酒に対する思い入れは強く。角打ちの商品ラインナップにも反映されています。そして、より多くのお酒を楽しんでもらうため、あえておすすめの一杯を決めずにどの銘柄も平等に愛する。そのお酒に対するこだわりには感服しました。
荒井屋さんを訪れて銘柄選びに迷った際は、ぜひ松村さんに好みの味を選んでもらうのが良いかもしれませんね。
住所:〒120-0038 東京都足立区千住橋戸町11
営業時間:9時00分~0時00分
定休日:日曜日
角打ち: [月~土] 17:00~21:30